Classの源泉:インド的四カーストの人格分類 (Sources of Classes: Personality Categorization in Indian Four-Caste)

凡例

 

一節:ゲームとの比較

 

一項:CRPGTRPG

 

Whatever their race, those who aspire to greatness must walk one of four paths to triumph or oblivion. For the mighty and humble alike, even the greatest of Quests begins with but a single step. 
 raceが何でも,壮大性を熱望する人たちは,祝勝または忘却への四つある進路の一つを歩かなければならない.豪壮的でも卑屈的でも,最も壮大なQuestさえ単一の足取りを伴って始まる.

 

出典:Shadowbane公式サイトのClasses (階級)

 

 筆者は,SBにおけるClass(筆者訳:階級)の源泉を,テーブルトークRPGである,オリジナル・ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下D&D)のサプリメント1:グレイホーク(西暦1975年),ならびに,古代インド(西暦紀元前2世紀ごろ)のカースト制度における,人格分類と結論づけました.本稿の目的は,三者がもつ構造の共通性を明らかにすることです.

 

 SBの開発初期(西暦1999年)におけるClass(階級)の数は,ベータ版および正式サービス(西暦2000年)における,Fighter(戦闘者),Healer(治癒者),Mage(呪師),Rogue(無頼)の四種とは異なり,後にProfession(専門職)およびDiscipline(分野)として細分化または改名された,Channeler, Warlock, Sorcerer, Archprelate, Summoner, Witch, Bladeweaver, Wizardの 八つでした(※1).後者の重要性は低いので,本稿では取り扱いません.

 

 これら四種のClass(階級)は,ウィザードリィ(西暦1981年9月)とウルティマ(西暦1981年6月)をはじめ,西洋のさまざまなコンピューターRPGにも登場します.しかし,初出はオリジナルD&Dのサプリメント1:グレイホーク(西暦1975年)です.したがって,本稿はSBのClass(階級)に対してだけでなく,D&Dのものに向ける考察でもあります.

 

二項:D&Dの四クラス

 

オリジナルD&Dの表紙(西暦1974年)

 

 ダンジョンズ&ドラゴンズは,ゲイリー・ガイギャックス(Gary Gygax)氏とデイヴ・アーンソン(Dave Arneson)氏が設計し,アメリカ合衆国のTactical Studies Rules(後にTSR, Inc.に改名)社によって,1974年に制作および販売された,テーブルトークRPGです.
 テーブルトークRPGとは,ゲーム機などのコンピュータを使わずに,紙や鉛筆,サイコロなどの道具を用いて,人間同士の会話とルールブックに記載されたルールに従って遊ぶ,対話型のロールプレイングゲームです.

 

 オリジナルD&D(西暦1974年)では,Fighting-Man,Magic-User,Clericの3種があり,サプリメント1:グレイホーク(西暦1975年)ではThiefが追加され,ベーシックセット(西暦1977年)では,Fighting-ManがFighterに改名されたうえで,4種についての説明文が同時に掲載されました.

 

 下記は,D&Dベーシックセットにおける1981年改訂版からの引用であり,TSR社の従業員であるトム・モルドヴェイ氏によって執筆された,各Classの簡潔なまとめです.

 

D&Dベーシックセットの1981年改訂版(Dungeons & Dragons Basic Set 1981 revision)

 

CLERICS 
Clerics are humans who have dedicated themselves to the service of a god or goddess. They are trained in fighting and casting spells. 
 Clericは,神または女神への奉仕に,かれら自身を献納してきたhumanです.かれらは,対戦ならびに呪文の詠唱において訓練されています.

 

FIGHTERS 
Fighters are humans who have train for battle. It is their job to fight monsters and to protect the weaker members of a party. Great heroes such as Hercules were fighters. 
 Fighterは戦闘の訓練をしたhumanです.怪物と戦い,党の弱い成員を保護するのがかれらの仕事です.ヘラクレスのような壮大な英雄たちはFighterでした.

 

MAGIC-USERS 
Magic-users are humans who, through study and practice, have learned how to cast magic spells. Merlin the Magician was a famous magic-user. 
 Magic-userは,学究ならびに応用を経由し,呪術的な綴字を投射する手順を学んだhumanです.呪術師マーリンは有名なMagic-userでした.

 

THIEVES 
Thieves are humans who are trained in the arts of stealing and sneaking. They are the only characters who can open locks and find traps without using magic to do so. Due to these abilities, a thief is often found in a normal group of adventurers. As their name indicates, however, they do steal – sometimes from members of their own party. 
 Thiefは,掏り取りおよび潜行における,複数の技芸を訓練をされたhumanです.呪術の使用を伴わずに,鍵を開けられたり罠を見つけられるキャラクターは,かれらだけです.これらの能力が原因で,Thiefは,冒険者の標準的な集団でしばしば見つけられます.かれらの名前が指し示しているとはいえ,かれらは掏り取ります――時には,かれら独自の党における成員から.

 

 下記は,Shadowbaneにおける公式サイトからの引用です.

 

シャドウベイン(Shadowbane)

 

Healer: 
Many simple healers go on to devote themselves to one of the Great Faiths, pledging their life and efforts to advance the causes of their chosen path, and are rewarded with even greater powers and miracles. 
 多くの単純なhealerたちは,Great Faithにおける一つへの献身に進み,選んだ進路における根拠を進歩させるために,かれらの人生および努力を確約して,一段と壮大な力および奇跡で報われます.

 

出典:The Healer's Way: The Path of Faith 

 

Fighter: 
Whether they fight for a cause, for glory, or for the simple love of slaughter, they fight. 
 根拠のため,栄光のため,または,殺戮への単純な愛のためであろうとなかろうと,かれらは戦います.

 

出典:The Fighter's Way: The Path of Might 

 

Mage: 
Knowing the nature of fire and its origins allows a mage to call fire to himself, or protect himself from a flame's capacity for harm.
 火の性質とその起源を知ることは,mageに,かれ自身へ火を呼ぶことを,または,加害となる炎の補足から,かれ自身を保護するのを許します.

 

出典:The Mage's Way: The Path of Lore 

 

Rogue
If a rogue needs food and shelter or wants wealth, they take it. Stealth and cunning are essential to their very survival, and so all rogues become adept at hiding from their enemies and making their way unseen and unheard. 
 rogueが,食物と避難所または財産を欲するなら,かれらはそれを取ります.隠密と狡知は,かれらの全くな生存における本質です,そして,それで全般のrogueたちは,敵からの隠伏ならびに道筋を,視られなくて聞かれないものへ作り変える達人になります.

 

出典:The Rogue's Way: The Path of Skill 

 

 上記から分かるように,D&DのClericとSBのHealerには信仰と奉仕が,D&DのFighterとSBのFighterには戦うことが,D&DのMagic-userとSBのMageには学究と呪術が,D&DのThiefとSBのRogueには,器用さと欲深さが共通しています.

 

三項:D&DのThief

 

 D&DのThiefとSBのRogueには,少ししか説明されていない側面があります。それは,かれらが商人でもあるということです.

 

 厳密には,Thiefの起源はサプリメント1:グレイホーク(西暦1975年)ではなく,ガイギャックス氏が執筆した同人誌である,Great Plains Games Players Newsletterの第9号(西暦1974年)が初出になります.
 のちに,プレイヤーたちの要望によって,ガイギャックス氏は,かれ自身が使用していた背景世界である,グレイホーク(Greyhawk)の内容を編纂して発売(西暦1980年)し,公式的な冒険の舞台はダンジョンの外にまで拡張されました(D&Dにおける公式的な背景世界は,上記以外にも複数があります).
 Gord the Rogue(西暦1985年)は,ガイギャックス氏が執筆した小説であり,その第一巻では,若いThiefである主人公が貧民街で生き抜きます.さらに,ClassとしてのThiefは,D&Dの第3版(西暦2000年)で改名され,Rogueになりました.さらに,同版ではRogueが詐欺(scam)も行うと明記されました.

 

 D&Dの第5版(西暦2014年)では,Rogueたちの多くが都市に住むこと,ならびに,犯罪者ではない少数のRogueについての説明があります.

 

A Shady Living (日陰の生活) 

 

Every town and city has its share of rogues. Most of them live up to the worst stereotypes of the class, making a living as burglars, assassins, cutpurses, and con artists. 
(中略)
A few rogues make an honest living as locksmiths, investigators, or exterminators, which can be a dangerous job in a world where dire rats—and wererats—haunt the sewers. As adventurers, rogues fall on both sides of the law. 
 全部の町および都市にはrogueたちが共有されます.かれらのほとんどは,classの最悪な複数の典型に応えており,侵入盗犯と暗殺者,ならびに,巾着切りとペテン師として生活を作ります.
(中略)
 僅かなrogueたちが,錠前師か捜査者,または,害獣駆除者として誠実な生活を作ります,これは,dire ratとwereratが下水道に出没する世界では,危険な仕事になりえます.

 

 D&DでもSBでも,兵士たちはFighterです.では,商人たちはどのClassに分類されるのでしょうか.下記は,SBにおけるRogueの直接的な発展形態である,Thiefが獲得するskillの説明文です.

 

Bargaining (価格交渉術) 

 

Seller beware! A keen eye, and quick wit can convince even the stingiest merchant to undercut some of the profit they covet. The merchant princes of Tariponto make haggling an art form. The frugal can learn much from their example. 
 販売者よ,用心しなさい!鋭敏な目と迅速な機知は,熱望する利益のいくらかを切り取ることさえも,最もけちな商人たちに納得させます.Tariponto人の商人公たちは,値切りをartの形相に作り変えます.倹約家はかれらの範例から多量を学べます.

 

 D&Dでは,公式サイトの中で,非公式の自家製サプリメントが制作および販売されています.その中には,Willy Abeel氏とLeon Barillaro氏によって制作されたルールブックである,The Book of Houseがあり,同作には,RogueのSubclassとして商人(Merchant)が特徴づけられています.
 FighterとMagic-userならびにClericを差し置いて,欲深いRogueたちが貧民街で正業または悪業によって資本を獲得し,さらに多くの財産を求めて,善良または不良な商人になるのは,当然の帰結になります.
 そして,成功した商人たちが順調に事業を継続し,三代目の当主が,商人公(merchant prince)として,貧民街とは無関係である裕福な生活を送っていても,欲深いRogueの気質を引き継いでいるなら,かれらはRogueであるといえます.

 

 D&DでもSBでも,都市において,Rogueは貧民街だけでなく高級住宅街にもいるのです.

 

二節:心理学との比較

 

一項:人格心理学

 

 心理学の一分野である人格心理学では,類型論と特性論で人格(パーソナリティー)を分類します.類型論は古くから用いられてきたものであり,特性論は,アメリカ合衆国1920年代から1930年代にかけて成立したものです.

 

 両者についての説明を,早稲田大学文学学術員の准教授であり,教育心理学博士である小塩真司先生(経歴は西暦2000年時のもの)の著作,『はじめて学ぶパーソナリティ心理学:個性をめぐる冒険』から引用します.

 

 類型論とは,人間をいくつかの種類に分類し,その各グループに典型的な特徴を記述することによって,パーソナリティを記述する方法のことです.


出典:小塩真司『はじめて学ぶパーソナリティ心理学:個性をめぐる冒険』 ミネルヴァ書房 2010年刊行 2016年5刷69頁

 

 パーソナリティを細かい単位に分け,それぞれの単位を『量』として数値で表していくパーソナリティ把握のしかたを,特性論と言います.


出典:同上85頁

 

 上記の理論に沿うと,ClassとProfessionならびにDisciplineでの分類は類型論に,Attribute(割当値)でのStrength(筋力),Dexterity(器用力),Constitution(構成力),Intelligence(知力),Spirit(霊力)は特性論に相当します.実際に,同書では両論をゲームのキャラクターで説明してくれます.
 つまり,SBのキャラクターは,類型論と特性論の複合で表現されているといえます.それに対して,The Elder Scrolls V : Skyrim(西暦2011年に,アメリカ合衆国のBethesda社が発売したビデオゲーム)では,外見を除くキャラクターの特徴が,主にスキルの数値だけで表現されているので,同作には特性論だけが相当します.テーブルトークRPGの古典であるD&Dとルーンクエスト(西暦1978年にアメリカ合衆国のChaosium社から発売)では,前者が類型論と特性論の複合であり,後者が特性論だけになります.

 

 類型論と特性論の関係および利用については,臨床心理士かつ公認心理士であり,東京都千代田区に位置する,東京カウンセリングオフィスの所長でもある,関本文博先生が興味深い言及をされています.

 

 類型論の歴史は特性論のそれより古く,紀元前の古代ギリシャにまで遡ることができます.
 それ故に現代では特性論の方が重視されがちですが,今こそ直観的で分かりやすい類型論が再注目されるべきと考えています.
 実社会や臨床で大事なことは、まず類型論で相手を大まかに把握し、その後特性論で細かく修正していくという二段階を順に行うことであり,他者への理解の手順を正しく踏むべきなのだと思います.


出典:東京カウンセリングオフィス公式サイト 性格類型論 西暦2021年9月12日
https://tokyoco.jp/typology/

 

三節:ビジネス論との比較

 

一項:DiSC評価

 

 DiSC評価とは,アメリカ合衆国において,心理学者と発明家および著作家であり,アメリカン大学とタフツ大学で教鞭を執った,ウィリアム・モールトン・マーストン(生没年:西暦紀元後1893年 – 1947年)先生が成立に貢献した,健康な人びとに見られる諸特徴を四種類に分ける基準です.マーストン先生は,血圧の上昇から嘘をついているかを見分ける,嘘発見器の発明者,ならびに,漫画『ワンダーウーマン』の原作者としても知られています.
 マーストン先生が西暦紀元後1928年に出版した著作『Emotions of Normal People』を基底として,西暦紀元後1956年に,同書の理論を発展させてDiSC評価と命名したのは,産業心理学者であるウォルター・クラーク(生没年:西暦紀元後1928年 - 2007年)先生です.DiSCという名前は,DominanceとInfluence,ならびに,SteadinessとComplianceの頭文字から取られており,各語が四種の特徴になります.

 

 Dominanceが主導型で赤タイプ,Influenceが感化型で黄タイプ,Steadinessが安定型で緑タイプ,Complianceが慎重型で青タイプです.

 

 赤タイプが自身をどう見ているか?

 

意気軒昂/競争心がある/時間を意識する/頑固/自律的/説得力がある/野心家/素早い/意志が固い/決断力がある/目標がはっきりしている/結果主義

 

出典:トーマス・エリクソン (著) 中野信子 (監) オーグレン英里子 (訳)『世界にバカは4人いる』 他人を平気で困らせる人々と付き合う方法 フォレスト出版 2019年刊行 初版 53頁

 

 黄タイプが自身をどう見ているか?

 

熱心/感じが良い/説得力がある/外交的/インスピレーションを与える/楽観的/柔軟性がある/オープンな性格/想像力豊か/衝動的/気さく/話し好き

 

出典:同上 73頁

 

 緑タイプが自身をどう見ているか?

 

気さく/温和/信頼できる/気遣いがある/感じの良い/忍耐強い/ありきたり/落ち着いている/協調性がある/慎重/面倒見がいい/聞き上手

 

出典:同上 87頁

 

 青タイプが自身をどう見ているか?

 

型にはまった/謙虚な/質志向/詳細志向/思慮深い/慎重/正確な/体系的/秩序がある/注意深い/綿密/論理的

 

出典:同上 104頁

 

 筆者の推測では,主導型であるDominanceが武人に,黄タイプであるInfluenceが商人に,安定型であるSteadinessが奉人に,慎重型であるCompliance文人に対応しています.

 

二項:TCL分析

 

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン丸亀製麺,ならびに,ネスタリゾート神戸の経営を立て直し,現在はマーケティング支援事業などを行う株式会社刀で代表取締役CEOを務める,森岡穀氏(生年:西暦紀元後1972年)は,TCL理論で人の強みを三つに分類します.TはThinkingを,CはCommunicationを,LはLeadershipを表します.

 

 (前略)この3つの分け方は,無数にある職能そのものではなく,その職能特有の個別の専門性でもなく,どの職能においても重要なビジネスパーソンとしてのコンピテンシー(基礎能力)として分類した.

 

Tの人:考える力/戦略性が強みになる
(中略)
典型的な趣味:Tの人は知的好奇心が満たされるものが趣味になっている.

 

(中略)

 

Cの人:伝える力/人と繋がる力が強みになる
(中略)
典型的な趣味:Cの人は人脈づくりが趣味のようなものだ.

 

(中略)

 

Lの人:変化を起こす力/人を動かす力が強みになる
(中略)
典型的な趣味:達成感を味わうことが生きがいなので,趣味もその嗜好を反映したストイックなものが多い.(後略)

 

出典:森岡毅 (著) 『苦しかったときの話をしようか』 ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 ダイヤモンド社 2019年刊行 6刷 121頁 - 128頁

 

 上記の理論は,筆者が別項で検討した三機能構造と対応しているといえるでしょう.Tは第一機能(文人)であり,Cは第三機能(商人)であり,Lは第二機能(武人)です.

 TCL理論自体は森岡穀氏が考案したものではなく,いつからあって誰が考案したのかについては筆者は確認できていませんが,同氏がP&Gジャパン合同会社に勤務していた時に,採用担当者たちが使用していた理論であるとのことです.

 

 あれはですね,原型はずっと以前にP&Gが人を採用するときに使っていた視点だったんです.学生を見るときも,T(考える力)とC(伝える力)とL(リーダーシップ)で見ていました.それらの潜在能力はやっぱりトレーニングが難しいところなんですよ.

 

出典:ダイヤモンド・オンライン 『成功者とは、好きなことの発見者である
森岡毅インタビュー[1]』 2019年4月10日
https://diamond.jp/articles/-/198936

 

 森岡穀氏がP&Gから独立した後でもTCL理論を唱えるのは,人びとにかれら自身の強みを認識させて,それを職業選択とキャリア形成に生かさせるためであり,著書『苦しかったときの話をしようか』は,元もとは就職活動に悩む自分の娘に向けて書いた原稿であり,それを編集して出版したものです.
 筆者が同書から得られた示唆の一つは,しばしば学校生活と就職活動ならびに業務などで用いられる教養系(文科系)と体育会系という区分は,人格の分類としてはあまりにも未熟なものであるということです.筆者の分析では,TCL理論におけるT(Thinking)は教養系(第一機能)に対応し,L(Leadership)は体育会系(第二機能)に対応するといえますが,C(Communication/第三機能)に対応する語は存在しません.
 人格の区分が二つだけであるのは足りないので,TCL理論が能力を三種類に分ける必要があったように,教養系と体育会系には新しい区分が追加されるべきであるし,文武両道という,文事と武事または勉学とスポーツに優れた人物を表す語は,諸能力の全てを押さえられてはいないのです.
 C(Communication)の人について詳しく見てみましょう.

 

典型的な趣味:Cの人は人脈づくりが趣味のようなものだ.興味は多彩で,その人にとっての人との繋がりや社交性を満足させるもの,あるいはその社交性を補強するものを趣味としている人が多い.SNSでLINEやインスタグラムを盛んにやるのもCの人.いわゆる“パリピ”も典型的なCの人.(後略)

 

出典:森岡毅 (著) 『苦しかったときの話をしようか』 ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 ダイヤモンド社 2019年刊行 6刷 126頁


 筆者は,上記の引用を根拠として,教養系と体育会系にC(Communication)の人が並置されること,ならびに,かれらを『社交系』と呼ぶことを提案します.そして,このC(Communication)の人と社交系の人は第三機能(商人/商業)に対応します.
 多くの企業における経営を立て直した森岡毅氏が唱える,TCL理論との共通性をもっていることからわかるように,三機能構造は決して古くて役立たない理論ではなく,現代でも通用するものであるといえます.

 

四節:古代および先史との比較

 

一項:魂の三分説

 

 古代ギリシアの哲学者であるプラトーン(生没年:西暦紀元前427年 – 紀元前347年.※通俗的にはプラトンと表記されます)先生は,著作『国家』と『パイドロス』ならびに『ティマイオス』で,魂の三分説を提示しました.
 魂の三分説とは,「国家」にとっての「知恵/勇気/節制/正義」を,「政務(立法)/軍事/商業」の関係性および役割分担で定義した後に,その定義を「個人」へと類比的に適用し,「個人の魂」を,「理知/気概/欲望」となる三つの部分に分割したものです.

 

 下記がそれらになります.

 

 ・理知(ロゴス)
 ・気概(テューモス)
 ・欲望(エピテューミア)

 

 上記は,国家の自由民における三種の階層でもあります.そして,プラトーン先生は,国家において,理知の性質が強い人が政務者(守護者)に,気概の性質が強い人が戦士(補助者)に,欲望の性質が強い人が金儲けの人になることこそが,正しい国家を実現すると説きました.

 

「(前略)金儲けを仕事とする種族,補助者の種族,守護者の種族が国家においてそれぞれ自己本来の仕事を守って行う場合,(中略)国家を〈正しい〉国家たらしめるものであることになる」

 

出典:プラトン(著) 藤沢令夫(訳) 『国家』〈上〉 (岩波書店) 1979年刊行 2016年57刷 337頁

 

 魂の三分説自体は,魂の働きと構造を表すものとして,自由民および国家に限らず,隷属民または外国人にも適用が可能な,普遍的な理論です.それをSBの四Classに適用すると,理知はMage,気概はFighter,欲望はRogueに相当します.
 D&Dを設定したガイギャックス氏が,自分のハンドルネームとして,『クルード』(ラテン文字表記:Cluedo.犯人と凶器ならびに殺害現場を当てることが目的である,イギリスの推理系ボードゲーム)のキャラクターである,マスタード大佐(Colonel Mustard)にプラトー(※Platoはプラトーン先生の名前をラテン語表記したものです)先生の名前を組み合わせた,プラドー大佐(Col_Pladoh)と名乗ったことは見逃せません.
 しかし,奉仕と祈りの人である,D&DのClericならびにSBのHealerに相当する性質については,『国家』に記されていないので,その起源を別のものに求める必要があります.

 

二項:三機能構造

 

 三機能構造とは,フランスの比較神話学者かつ言語学者である,ジョルジュ・デュメジル(生没年:西暦1898年 – 1986年.エコール・ノルマル校卒,イスタンブール大学宗教史教授)先生が発見した,原インド・ヨーロッパ語族がもつ理論です.
 インド・ヨーロッパ語族とは,ロシアのカザフ・キルギス草原地域を地域に起源をもち,西暦紀元前三千年から,数回にわたって,インドからヨーロッパにかけた地域に拡散した語族です.三機能構造とは,遊牧民であるかれらがもつ神話上の諸神格が,祭司と戦士ならびに飼育者で構成されているという理論です.

 

 第一機能については,一つには聖なるものとの関係がある.(中略)神々の配慮や保証(法律,行政)のもとでの人と人の関係であったりする.また神々の意志や好みにしたがって王やその代理人が行使する主権的権力もある.(中略)瞑想や聖物の取り扱いなどと不可分な関係にある知識や知性もここに属する.第二機能には,猛々しい肉体的な力,(中略)主として戦士が行う力の行使が含まれる.第三機能の本質を簡潔にいい現わすのは,より難しい.(中略)人間,動物,植物の豊穣はもちろんだが,同時に栄養,豊かさ,健康,そしてその効力と楽しさを含めた平和なども,ここに含まれる.さらに好色さ,美しさ,「多数性」などもよく見受けられる.このうち最後の「多数性」には,物質面(豊富さ)のみならず,社会総体(群衆)を形成するひとびとの多数性も含まれている.

 

出典: ジョルジュ・デュメジル (著) 松村 一男 (訳) 神々の構造 ――印欧語族三区分イデオロギー―― 1987年刊行 初版一刷33頁

 

 多くの批判を受け,デュメジル先生が三機能構造を修正したことによって,同論がもっていた社会階層との関係は除去されました.しかし,祭司/戦士/飼育者が,初期遊牧社会における牧夫/イヌ/ヒツジに対応することを,中川洋一郎(国際学修士かつ経済史学博士.中央大学名誉教授)先生は指摘します.

 

 (前略)もし,デュメジルと彼の説を支持する研究者たちが上記の強力な批判 (原インド・ヨーロッパ語族民の組織に社会的三階級構造はなかった) に屈することなく,「初期遊牧組織においては,《牧夫→イヌ→ヒツジ》からなる三階級構造が形成され,それが《三機能性》の基盤となった」)という地に足の着いた堅実な発想を得ていれば,事態は大きく変わっていたであろう.

 

出典:ジョルジュ・デュメジル《三機能性》論,1950年の蹉跌 中川洋一郎 (西暦2019年)
https://researchmap.jp/read0026230/published_papers/22849088

 

 前項で,筆者がMage/Fighter/Rogueに類似していると推定した,魂の三分説が三機能構造と似ていることに,お気づきになりましたか.実際に,デュメジル先生は,プラトーン先生の国家論には三機能構造が発現していると考えました.しかし,日本ではほとんどそれは論じられていないようです.中川洋一郎先生はそれを指摘しています.

 

 しかし,いささか奇妙なことに,日本の学会で,「プラトンと《三区分イデオロギー》との関係いかん」という問題が論じられたことは,寡聞にして知らない.プラトンの『国家』あるいは《魂の三区分》説が,《三区分イデオロギー》との関連で論じられた形跡が見つからないのである.これは,筆者がプラトン研究の門外漢なので,おそらく研究史に無知ゆえなのだろう.

 

出典:プラトン《魂の三区分》説とデュメジル《三区分イデオロギー》説 中川洋一郎 (西暦2018年)
https://researchmap.jp/read0026230/published_papers/22849090

 

 筆者は,SBにおけるMage/Fighter/Rogue(西暦2001年)の源泉を,D&DのMagic-user/Fighter/Thief(西暦1974年)から,魂の三分説の理知/気概/欲望(西暦紀元前4世紀),三機能構造の祭司/戦士/飼育者,ならびに,初期遊牧社会の牧夫/イヌ/ヒツジ(西暦紀元前40世紀)にまで遡りました.
 筆者なりに各機能を一語で表現すると,それらは文人/武人/商人,または,文業/武業/商業になります.

 

五節:インドとの比較

 

一項:第四機能の登場と特異性

 

 D&DではCleric(聖職者)と呼ばれ,SBではHealer(治癒者)と呼ばれる人びとに共通するのは,信仰と奉仕の実践,ならびに,神の援助によって,治癒と防護ならびに神罰などの現象を起こすことです.
 筆者はかれらが第四機能に属していると推測しますが,ここで明記しなければならないのは,本稿の題名で用いた四カーストは,社会階級論だけでなく,人格類型論も兼ねていることです.そして,D&DおよびSBのClassでは,各Classに上下関係がない人格類型論が採用されています.
 第四機能は特異であるので,その説明を行う前に,長大になってしまいますが,四カーストについての複数におよぶ説明と解釈を記述します.

 

 本稿の題名では,ポルトガル語が由来であり,血統を意味するカーストの語を採用しましたが,この語は,インド亜大陸におけるヴァルナとジャーティーが,十六世紀のポルトガル人によって統合された概念です.ヴァルナとジャーティーサンスクリット語であり,前者は色を意味する社会階級であり,後者は,出自と生まれを意味する,排他的な職業と地縁ならびに血縁的社会集団と階層です.
 筆者が本稿で用いた四カーストの語は四種のヴァルナを指しますが,後者は通俗的な語ではないため,本稿および各項目の題名には採用していません.しかし,本節からは,意味の正確性を期すために,カーストの語ではなくヴァルナの語を使用します.

 

 ヴァルナは三機能構造から発展したものであり,インド亜大陸の第四機能は,遅くとも紀元前1200年ごろから紀元前1000年ごろまでに,第三機能から分離して成立しました.インド亜大陸の第四機能ことシュードラに分類される人びとは多様であり,隷属民と労働者,ならびに,未婚の女性,さらに,上位階層の若い御曹司などが挙げられます.
 上位の三階層における適切な婚姻から生まれた男児たちでさえも,インド亜大陸の第一機能ことブラーミンが執行する,聖典を学ぶための通過儀礼を受けなければ,上位の三階層には加入できません.女性の場合は,婚姻の際に通過儀礼が行われます.この事例から分かるのは,上位の三階層が結社的な性格をもっていること,ならびに,御曹司でさえも青年期まではシュードラに区分されることです.
 しばしば,シュードラは各種の情報媒体で農奴と奴隷または労働者と説明されるので,若い御曹司および令嬢さえもシュードラに分類されることを,読者の方は奇妙に感じたかもしれません.しかし,かれらに共通する要素を知ると,円滑に理解できるでしょう.それは「奉仕すべき人びと」であるということであり,シュードラにとって,奉仕の対象は父親と夫または雇用主です.

 

 第四機能とは,一時的または永続的な未熟者たちによる奉仕のヴァルナであって,下位に位置づけられており,かれらの一部は,かれらの人格に応じて上位である三機能のどれかに発展します.

 

二項:身分としての四カースト

 

 原インド・ヨーロッパ語族である遊牧民アーリア人は,紀元前1500年ごろから,中央アジアの高原から段階的にインド亜大陸に移住し,先住民たちと同化しました.かれらの祭司であるブラーミンたちが成立させた聖典,『リグ・ヴェーダ』には,四ヴァルナ,ならびに,第四機能に対する最初の言及があります.
 インド亜大陸では,第一機能はブラーミン,第二機能はクシャトリア,第三機能はヴァイシャ,第四機能はシュードラと呼ばれています.

 

 彼の口はブラーフマナバラモン,祭官)なりき.両腕はラージャニア(王族・武人階級)となされたり.彼の両腿はすなわちヴァイシア(庶民階級)なり.両足よりシュードラ(奴婢階級)生じたり.

 

出典:辻直四郎 訳 『リグ・ヴェーダ賛歌』 岩波書店岩波文庫〉 1970年刊行 1998年31刷 318頁

 

(※上記の〔彼〕とは,千個の頭と目および手足をもつ原人プルシャを指します.ブラーフマナバラモンはブラーミンの別称です.ラージャニアはクシャトリアの別称です)

 

 下記は,紀元前二世紀から紀元後二世紀の間に編纂された,マヌ法典からの引用です.ヴァルナについての記述が,『リグ・ヴェーダ』のものよりも詳細です.

 

 ブラーフマナには,〔ヴェーダの〕教授と学習,〔自らのために〕祭儀を行うこと,他人のために祭儀をすること,贈物を受け取ることを配分した.

 

 クシャトリアには,人民の守護,贈物をすること,祭儀をすること,〔ヴェーダの〕学習,感官の対象への無執着を結び付けた.

 

 ヴァイシャには,家畜の守護,贈物をすること,祭儀をすること,〔ヴェーダの〕学習,商いの道,金貸しおよび農耕を〔配分した〕.

 

 シュードラには,主はただ一つの職務・行動しか命じなかった.前述の身分〔ヴァルナ〕に対して妬むことなく奉仕することである.

 

出典:渡瀬信之 訳注 『マヌ法典』 平凡社東洋文庫〉 2013年 初版1刷 35頁

 

 このような社会階級論を内面化した人びとによる,異邦人への態度には二種類があります.一つ目は全員をヴァルナの外に分類することであり,二つ目は,対象または対象の両親が従事する職業,ならびに,対象の人格を分析して,四機能またはヴァルナ外のどれかに分類することです.
 後者の事例で注目すべきことは,インドに固有である聖典の学習と通過儀礼が不要であることであり,両者には,ヴァルナをインド固有のものとするか普遍的なものとするかの違いがあります.筆者は,これを『特殊的階級論』と『普遍的階級論』と命名しました.

 

 インド亜大陸をイギリス帝国から非暴力運動で独立に導いた,宗教家および政治指導者である,マハートマ・ガンディーことモーハンダース・カラムチャンド・ガーンディー(生没年:西暦1869年 – 1948年)先生は,ヴァルナを下記のように分析しました.その理論は,筆者が前述した『普遍的階級論』に対応します.

 

 ヴァルナとは,人間の職業の選択が先天的に決定されていることを意味する.ヴァルナの法則は,人が生計を立てるために祖先より受け継いだ職業に従事するというものである.ヴァルナはヒンドゥー教徒に課せられたものではなく,人間の福利の実現を託された人々が発見した法則である.それは人間の案出したものではなく,不変の自然法則の一つであり,ニュートン万有引力の法則のように,常に存在し,働いている傾向の表明である.引力の法則は,それが発見される前に存在していたように,ヴァルナの法則も存在していた.ヒンドゥー教徒はその法則を発見することができたのである.

 

出典:マハートマ・ガンディー 著 竹内啓二 他 訳 『私にとっての宗教』 新評論 1991年刊行 256頁 - 257頁

 

 SBのゲーム上で,第二機能に該当するFighter(戦闘者)の直接的な発展形態である,Warrior(戦士)のTrainer(訓練者)は,NPCとして下記のように語ります.

 

the Knights of the Petty Kingdoms, the archers of the Waste Nomads, the mercenaries who follow the War Lords, even the Great Berserks of the Frozen North are all Warriors at heart -- no matter the particulars of their craft. 
 諸Petty KingdomのKnightたち,Waste Nomadの弧弓士たち,War Lordたちに従う傭兵たち,Frozen NorthのGreat Berserkたちでさえも,心において,かれらは全てWarriorだ――かれらの技工における細部は案件でない.

 

出典:Warrior Trainer

 

※諸Petty Kingdomは,現実世界のヨーロッパ州に対応する地域です.Waste NomadのWasteは,現実世界における中央アジア地域の乾燥地帯に対応しています.Frozen Northは,現実世界のヨーロッパ州北部とユーラシア大陸北部に対応しています.

 

 上記からわかるのは,第二機能(武人)が,特定の地域および民族と武器ならびに技術ではなく,武人的な人格を条件としていることであり,ガンディー先生の唱えた理論と一致しています.当然に,それは第一機能(文人)と第三機能(商人)ならびに第四機能(奉人)にも適用されるでしょう.それが四Classとして強く反映されているのが,D&Dを始めとする多くの西洋RPGです.
 そして,ヴァルナとは普遍的な法則であるので,現実と仮想ならびに時代を問わず,あらゆる個人および集団と社会に適応が可能なものであるのです.

 

 インド亜大陸では,第一機能であるブラーミンが,慣習と宗教法によって最高の地位を長く維持してきました.しかし,どの機能が最高の地位を得るかは,地域と集団ならびに時代ごとに異なります.
 例えば,軍事独裁政権では,第一機能(文人)よりも第二機能(武人)の方が高い地位を得るのは明白です.近代における商業の発展は,第三機能である商人たちに多大な権力をもたらし,普通選挙権は,第四機能である労働者(奉人/奉仕者/大衆)たちに最高の地位を与えました.組織には業種の種類があり,官公庁と大学は第一機能(文業)であり,軍隊とスポーツジムは第二機能(武業)であり,会社は第三機能(商業)です.
 ヴァルナ論では,第一機能(文人)が,各社会および各時代で必ず最高の地位を得るわけでなく,各ヴァルナの類型は上下関係に先行します.その類型は役割(ダルマ)であり,社会を人体と対応させた有機的な関係をもっています.したがって,D&DおよびSBの四Class(階級)に上下関係が設定されていないことは,ヴァルナ論と矛盾しないのです.

 

 SBに四Class(階級)が設定された西暦紀元後2001年2月頃から,サービスが終了した西暦紀元後2009年7月の間に,各Class(階級)から昇格できる四つのProfession(専門職)が追加されました.しかし,仮にサービスが継続していたとしても,四Class(階級)は四機能構造を源泉としているので,五つ目のClass(階級)が追加されることは起きないでしょう.

 

三項:人格としての四カースト

 

六節:第一機能と第四機能の相違

 

Mageにおける本流と亜流

 

 Mageたちのギルド(Guild)である賢人密議(Wizard's Conclave)における,Adeptus Minorなどの位階名から分かるように,同ギルドの源泉は,黄金の夜明け団,薔薇十字団,フリーメイソンなどの,ヨーロッパ州における秘密結社です.そして,それらの秘密結社は,古代宗教の祭司たちがもっていた,密儀を継承していると主張しています.
 したがって,賢人密議(Wizard's Conclave)に加入する主要なMageたちの源泉が,それらの秘密結社における成員たちであることを推測できます.

 

 プレイヤーたちがゲーム中で会うNPCである,Mageおよびその発展形であるWizardのTrainerたちが,ゲーム中の文章ならびにゲーム外の文章から,かれらが同組織に所属,または,同組織と同一の文化をもっていることを推測できます.
 SB世界において,賢人密議(Wizard's Conclave)の成員たちは最多の登場をするMageであるので,プレイヤーたちの大半が,かれらを本流のMageとして認識しているかもしれません.しかし,SB世界と現実世界の両方において,賢人密議(Wizard's Conclave)も秘密結社も,Mageとしては,歴史的にはかれらは亜流であり,本流ではありません.
 結局のところ,両者は別項で論じた第一機能(祭司)に属しています.しかし,真の源泉である本流のMageは,現実世界においては古代社会の祭司たちであり,SB世界においては,賢人密議(Wizard's Conclave)が創立される前から存在するMageたちです.
 このような祭司たちは祖先祭祀に起源をもつので,本来は血縁集団以外に対して排他的でありましたし,都市神を祀る段階になっても,庶民および外国人を祭祀に参加させるのは,後の時期までありませんでした.
 19世紀のフランス共和国における歴史家である,フュステル・ド・クーランジュ(生没年:西暦1830年 – 1889年.エコール・ノルマル校卒)先生は,著書『古代都市』で古代宗教および祭司についての説明をしています.

 

 竈は何十世紀以前から信仰の第一位をしめていて,それよりあたらしくまた偉大な神々も,竈の地位を奪うことができなかったのである.
62頁

 

 ギリシア人とローマ人にあっては,インド人と同様に,法律ははじめ宗教の一部であった.都市のふるい法典は,法律上の規定と同時に礼拝式や祈祷をふくんだ集大成であった.
272頁

 

 法律は宗教の一部をなしていたから,都市の宗教と同様,厳重に秘密にされていた.(中略)他国人ばかりでなく,庶民にもかくされていた.(中略)法律が,その起源と性質からして,ながく神秘的なものとされ,あらかじめ国家や家族の宗教に導入されたもの以外にはつたえられなかったからである.
278頁

追記します

 

最上の奉仕者たち

 

 第一機能の文,第二機能の武,第三機能の商は,価値観および権力における三種の基本的な源泉です.そして,インド亜大陸の歴史上で,第四機能として上位の三機能に奉仕を強制されてきた人びとは,慣習および宗教法で下位に置かれ,奉仕を強制される労働者たちでした.当然に,古今東西でこのような人びとは見られ,奉仕は見習いおよび被支配者が優先すべき価値観とされます.
 しかし,奉仕を最も重要な価値観とみなし,高度に発達させることで,尊敬または権力を得る人びとも現れました.例として挙げられるのは,ケア職とボランティアと公僕,ならびに,第四機能的な宗教家および王であり,D&DおよびSBで主に扱われるのは宗教家です.

 

 現実世界における下僕と労働者たちは,地位または身分としては第四機能に属しますが,奉仕を重んじる人格の類型としては,必ずしも第四機能に属しているとはいえません.なぜなら,社会は大勢の労働者を必要としますし,かれらの中には自発的でない人びとが含まれるからです.
 第二機能に属する戦争では,他の機能に属する人びとを対象に徴兵が行われることがあります.優れた戦士が捕虜になり,奴隷(第五機能)や第四機能である労働者にされることもあります.明治時代の初期に,士族(第二機能)たちは生計のために商売(第三機能)を始めるのを余儀なくされ,かれらの多くが没落しました.
 これらの事例から分かるように,社会的状況と徴用ならびに敗北は,四機能構造における人格と職種を不一致させる場合があります.D&DおよびSBにおける四Classとは,身分または職種ではなく人格のみが範囲であるといえますし,そのような人びとが行う奉仕は自発的なものです.

 

 奉仕について整理します.奉仕には強制と自発の二種類があり,後者が強力な第四機能の人びとが用いるものです.強制的な奉仕で得られるものは少ない経験および報酬にとどまり,自発的な奉仕は成長と名声をもたらします.奉仕の対象はさまざまであり,目上と同格と目下,親と子,師匠と主人,ならびに,共同体と神的存在などが挙げられます.奉仕は自己犠牲と無私ならびに利他でもあります.
 第四機能の人びとが奉仕の他に重んじるものは,世俗と道徳ならびに祈りと信仰です.そして,かれらは選民および選良の側に立たず,民衆を擁護しますし,慈善活動と社会奉仕を行います.実際に,多くの偉人たちが,そのような生き方で他の三機能に劣らない名声を得ました.

 例えば,西暦紀元後1世紀にイスラエル王国パレスチナ州で慈善活動を行い,キリスト教の救い主になった,イエス・キリストことナザレのイエスさまは,奉仕について下記のように説きました.そして,キリスト教が世界と歴史に大きな影響を与えたことは言うまでもありません.

 

 あなた方のうちで偉くなりたい者は,かえってみなに仕える者となり,また,あなたがたのうちで第一の者になりたい者は,みなの僕となりなさい.人の子が来たのも,仕えられるためではなく,仕えるためであり,また多くの人の贖いとして,自分の命を与えるためである.

 

出典:マルコ10章43-45節 フランシスコ会聖書研究所 (監修, 翻訳) 新約聖書(新版)FB-B6N サンパウロ 2012年刊行 初版 114頁

 

※人の子とはイエスさまのことです.

 

 当然に,このような生き方は信仰者でなくても可能です.インド共和国のヨーガ指導者かつ社会活動家である,スワミ・ヴィヴェーカーナンダことノレンドロナト・ドット(生没年:紀元後1863年 - 紀元後1902年)先生は,著書『カルマ・ヨーガ』で下記のように説明しました.

 

 もしあなたが非利己的なら,一冊の宗教書も読んでいなくても,教会にも寺にもただの一度も行ったことがなくても,あなたは完全でしょう.

 

出典:スワミ・ヴィヴェーカーナンダ (著) 日本ヴェーダーンタ協会 (訳) 『カルマ・ヨーガ』 ――働きのヨーガ―― 1989年刊行 2016年 改訂版 二刷 160頁

 

MageおよびHealerにおける宗教家としての相違

 

 SBのキャラクター作成時における,classおよびルーン(rune)の選択から分かるように,Mageは高い知能値(INT/intelligence)をもっていますが,霊能値(SPI/spirit)は低く,その一方で,Healerは高い霊能値(SPI/spirit)もっていて,知能値(INT/intelligence)は低いです.
 Mageは,呪術(magic)を使用するために綴文(spell)を投射(cast)し,Healerは,奇跡(miracle)を使用するために神を崇拝(worship)します.
 両classから昇格が可能な専門職(profession)である,Channelerがもつ技術(skill)には興味深い説明文が書かれています.

 

Channeling 

 

(前略)Those with the gift of Channeling use faith or philosophy to manipulate the threads of the Tapestry
(前略)Channeling術の賜物を伴うかれらは,Tapestryの諸糸を操作するために,信仰または哲学を使用します.

 

 上記からは,信仰(faith)がHealerに,哲学(philosophy)がMageに関連付けられていることを推測できます.なぜなら,信仰を行うのは高い知能をもっていなくてもできますし,哲学を理解するのは高い霊能をもっていなくてもできるからです.
 信仰を前提とする哲学であり,SBに何度か登場する語でもある神学(theology)は,高い知能をもつHealerが学ぶものであると,筆者は推測します.結局のところ,信仰と哲学の両方が,超自然的な現象を引き起こす源泉として設定されています.

 

 Mageと哲学の関連が判明しましたが,それの源泉は,現実世界におけるどの時代のどの哲学なのでしょうか.かれらが主に取り扱うものは,古代ギリシアの哲学者であるソクラテス(生没年:西暦紀元前469年頃 – 紀元前399年)先生たちよりも遥かに古い,密儀の象徴哲学であることを筆者は推測します.
 哲学探究協会(Philosophical Research Society)を創設し,同団体の初代理事長に就任した,神秘主義者であるマンリー・パーマー・ホール(生没年:西暦1901年 – 1990年)氏は,著書で密儀の象徴哲学について説明しています.

 

 タレスピュタゴラスプラトンはその哲学的な放浪を通じて,多くの遠隔の地の宗派と接し.エジプトや不可解な東洋の知識を持ち帰ったのである.
 このような明白な事実から,哲学は古代の宗教「密儀」から生まれ,「密儀」の崩壊までは宗教と分離していなかったことは明らかである.従って哲学思想の深さを測ろうとする人は.神の啓示の最初の保管者と呼ばれる密儀に通じた祭司の教えに親しまなければならない.

 

出典:新版 古代の密儀 (象徴哲学大系)
マンリー・P. ホール (著) 大沼 忠弘 (翻訳) 山田 耕士 (翻訳) 吉村 正和 (翻訳)
2014年10月2日刊行 2014年9月30日新版一刷 57頁 

 

 ゲーム外の文章には少ししか登場しないのですが,ゲーム内には,MageのTrainerたちを収容する建物である,Academy of the Mystic Artsを始め,Wizardがもつ複数のPower,ならびに,Mage型である複数のMobがもつ名前に,Mystic(神秘)の語が多く使われていることから,Mageたちが神秘主義(mysticism)の人たちであることを推定できます.
 HealerとMageは神への態度が異なります.Healerは信仰者であり,神に対して,自分を対等または上位に位置づけませんが,Mageは神秘主義者であり,神に対して,自分を対等または上位に位置づけます.
 さらに,Mobであるオーク(Orc)およびトカゲ人(Lizardman)などの巫者(shaman)が,Mageの能力(power)を使うことから分かるように,巫者もMageに分類されます.そして,現実世界の巫者も神を崇拝する人びとではありません.

 

 Mageは,支配者的な祭司の血筋または高度な知能をもつので,第一機能に属しており,Healerは,奉仕者性をもちながら高度な知能を賛美しないので,第四機能に属しています.したがって,Mageは選民的かつ選良的であり,Healerは万民的かつ落伍的です.
 なお,Mageおよび第一機能は文人性に基づくものであるので,知的な宗教家たちを批判する知的な唯物論者および無神論者でさえも,結局はMageおよび第一機能に属しているといえます.SBのHealerは信仰を前提としていますが,第四機能の本質は奉仕性であるので,無私かつ利他的であるなら,SB世界または現実世界で唯物論または無神論を信じる人であっても,第四機能およびHealerに属するといえるでしょう.

 

一項:異術と奇跡

 

二項:法と徳

 

三項:非人格的真理と人格神

 

七節:遺伝学との比較

 

一項:人格の決定

 

 別項での検討を経て,SBのClass (階級)が人格(パーソナリティ)であることを推定しました.個人差の決定において,先天的要因と後天的要因のどちらがより重要であるのかについては,多くの議論がされています.ここで,人格心理学と発達心理学ならびに行動遺伝学を参照し,人格の表れである,SBのClass (階級)がどのように決定されるのかを検討します.

 早稲田大学文学学術員の准教授であり,教育心理学博士である小塩真司先生(経歴は西暦2000年時のもの)は,先天的である遺伝と後天的である環境の,どちらが人格決定により影響するのかについては,明言を避けます.

 

 遺伝と環境の影響という話をすると,「結局どっちが影響するのですか?」という質問をする人は多いようです.(中略)そのような質問が出てくること自体,パーソナリティ特性という考え方を理解できていない証拠です.(中略)複雑なものは,理解できる範囲でそれなりに複雑なものとして理解しておくのが,正しい姿勢ではないかと思うのですが,いかがでしょうか.

 

出典:小塩真司『はじめて学ぶパーソナリティ心理学:個性をめぐる冒険』 ミネルヴァ書房 2010年刊行 2016年5刷213頁

 

 発達とは一生涯の変化過程であると定義されており,それは人格形成でもあるので,本項では発達心理学も参照します.
 日本大学文理学部の教授である,内藤佳津雄先生,日本大学文理学部助教である北村世都先生,ならびに,日本大学文理学部助教である市川優一郎先生は,編者を務めた発達心理学の入門書で,遺伝と環境に関する四つの説を紹介しています.

 

[1] 生得説
 生得的要因が発達において決定的に影響を持っているという考え方を生得説(遺伝説・先天説)という.近代以前のヨーロッパ社会では,生まれこそが人生を決定する要因であった.

 

(中略)

 

[2] 学習説
 一方で,生得的要因ではなく,経験による学習こそが発達を決定づけるという考え方を学習説(経験説、環境説)という.

 

(中略)

 

[3] (省略)

 

(中略)

 

[4] 輻輳
 (前略)輻輳説では,生得的要因と経験的要因が加算的に働き,発達が決定されると考える.

(中略)

 

[5] 相互作用説
 現在では,生得的要因と経験的要因は加算的ではなく,相互に作用して積算敵に発達に影響を及ぼしていると考えられている.これを相互作用説という.しかし,生得的要因と経験的要因のどちらが優位なのか,経験がどのように生かされるのかといった点について,いくつかの考え方が提案されている.

 

出典:内藤 佳津雄 (編集), 北村 世都 (編集), 市川 優一郎 (編集) 『発達と学習』 弘文堂〈Next教科書シリーズ〉2016年刊行 1刷 6頁 – 9 頁

 

 上記の引用では,各説の結論に至る各実験の詳細については省略しました.発達において,先天性と後天性のどちらが優位になるのか,または,等しいものであるのかについては,両書籍では断言されませんし,筆者には判断が難しいです.
 しかし,その一方で,環境論者から遺伝論者に転向した,慶應義塾大学文学部教授かつ教育学博士であり,行動遺伝学と教育心理学を専門とする安藤寿康先生(生年:西暦紀元後1958年)は,人格と能力には,環境よりも遺伝の方が大きく影響していると力説します.

 

「人間の才能が環境によって決定される」というのであれば,科学者はそれをデータによって実証的に示さなければなりません.こうあってほしいという期待に基づいて,遺伝の影響を軽視し,環境の影響を重視するというのは,科学的な態度とはいえず,イデオロギーに過ぎないからです.
 遺伝と環境の影響を分離して実証的にその大きさを示すことのできる行動遺伝学は,まさにこの問題にイデオロギーや先入観なしに科学的な態度で臨むことのできる理論と方法を持っていました.(中略)
 こうして来る日も来る日も行動遺伝学の研究論文を読み進めていくうち,人間のほとんどすべての心理的側面には遺伝が無視することのできない大きな影響を与えていることがわかってきました.自分で双生児のデータを集めて調べてみても,同じ結論に至りました.そして気づかされたわけです.人間も遺伝子の産物であり,顔や形が遺伝子の影響を受けているのだから,能力も同じように遺伝子の影響を受けるのは当たり前のことじゃないか,と.

 

出典:安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書) SBクリエイティブ 2016年刊行 2017年3刷 25頁

 

 安藤寿康先生が行動遺伝学で導き出した,先天性が優位であるという結論は,三機能構造と四機能構造を発見した,インド・ヨーロッパ語族アーリア人がもった見解と共通しているといえるでしょう.遊牧民として家畜を交配させてきたかれらは,遺伝子が発見された19世紀よりも遠い昔である西暦紀元前三千年頃には,人格および才能における大部分が先天的に決まることを知っていたのです.
 D&DおよびSBなどの西洋RPGでは,インド亜大陸の四カーストこと四機能構造が,人格分類として採用されてることを筆者は別項で指摘しました.D&D諸世界とSB世界の住民たちは,四機能構造である四Class(階級)を認識しながら生きていますが,人格決定の優位性が遺伝と環境のどちらにあるかについては,アーリア人に対応する人びと以外は何も推察していないと考えられます.

 

二項:才能の訓練

 

 人間の心理的側面および才能における大部分が,先天的要素によって決まるという結論は行動遺伝学によって突き止められました.D&D諸世界とSB世界における住人たちが,ヒトであろうがエルフであろうが,生物であるならそれは変わらないでしょう.
 実際に,わたしたちは,交流または情報媒体を経由して,環境の影響がまだ小さい児童たちがもつさまざまな長所を見ます.ある子供は運動に秀でていて,別の子供は勉強または芸術に優れていますし,能力が突出していない子供でも,本人の中では最も得意な何らかの分野があるでしょう.それらは遺伝子によるものであり,人びとの中には過去が生きています.

 

 したがって,上記のような遺伝論を踏まえたうえで,慶應義塾大学文学部教授かつ教育学博士であり,行動遺伝学と教育心理学を専門とする安藤寿康先生(生年:西暦紀元後1958年)は,ほとんどの人が不当な努力を強制されていると指摘し,独自の教育論を提示します.

 

 現代社会は高度な知識の集積によってできているのですから,その知識を伝えられるのは,本来なら専門家だけのはずでしょう.にもかかわらず,不思議なことに中学教師,高校教師という職業が存在し,専門家でもない彼らが生徒に知識を伝えようとしています.
(中略)
 12歳以降の「大人」に対して教えるべきは社会とつながった本物の勉強であるべきです.実際スポーツや芸術の分野で一流を目指す人は,専門家から教わります.(後略)

 

出典:安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書) SBクリエイティブ 2016年刊行 2017年3刷 171頁-172頁

 

 ある程度の年齢になったら,一人前になって自分の食い扶持を自分で稼げるようになってもらわないと困ります.近代以前はそれが12歳前後であり,それは社会的な条件からではなく,生物学的な仕組みがそうなっているからでした.

 

出典:同上 188頁

 

 上記に加えて,安藤寿康先生は,社会自体を職業体験テーマパークであるキッザニアのように変えて,あらゆる世代の人びとが,希望する職業の体験ができるようになるべきだと主張します.そして,通信教育と遠隔教育については,すでに実現されている理想として高く評価しています.
 このような教育観と訓練観は近現代および前近代の諸長所が統合されたものであり,SBを含む国内外のRPGおよび幻想文学で見られるような,ギルド(座)や徒弟制度などの,中近世的な社会制度の再評価に繋がるのではないでしょうか.

 

三項:混血

 

 行動遺伝学は,個人の人格および才能が先天的に決定されることを証明しました.その理論は,別項で検討した四機能構造かつ四ヴァルナであり,普遍的階級でもある四Class (階級)にも適用が可能なものであるといえます.
 D&D諸世界およびSB世界の住民である,NPC (非プレイヤーのキャラクター)またはPC (プレイヤーのキャラクター)は,各人が生まれながらにどれかのClass (階級)に属していて,それらがどのように決定されたのかは説明されませんが,原因が遺伝であるのを推測できます.つまり,あるキャラクターにFighter (戦闘者)のClass (階級)が発現するのは,かれの親または祖先にFighter (戦闘者)がいることが原因であるといえます.
 とはいえ,Class (階級)が異なる男女が子供を儲けると,その両親は子供にどのClass (階級)が発現するのかを識別しにくくなるので,適切な教育を与えにくくなり,子供自身も自分が父親と母親のどちらに似ているのかが分かりにくくなり,自己の確立により苦労すると推測できます.

 

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン丸亀製麺,ならびに,ネスタリゾート神戸の経営を立て直し,現在はマーケティング支援事業などを行う株式会社刀で代表取締役CEOを務める,森岡穀氏(生年:西暦紀元後1972年)は下記のように述べます.

 

 自分の中に基準となる「軸」がなければ,やりたいことが生まれるはずも,選べるはずもない.

 

出典:森岡毅 (著) 『苦しかったときの話をしようか』 ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 ダイヤモンド社 2019年刊行 6刷 24P頁

 

 (前略)ナスビがナスビだとわかっていることは非常に大切だが,実はそれが一番難しいのだ.(中略)そもそも何を目指すのか,何がしたいのか(後略)

 

(中略)

 

 (前略)欧米のような個人主義の文化では,たとえ嫌でも自分という“個”について幼少期から自覚を促される教育を,家庭でも学校でも受け続ける.しかしゼロから何かを生み出して全員で分ける農耕民族を長く続けてきた日本人はそうではない.

 

出典:同上 142P頁 - 143頁

 

 とはいえ,欧米の若者たちにとっても,自分の個性を見出すのは容易なことではない,またはなかったようです.アメリカ合衆国ブランディス大学で心理学の教授をし,アメリカ心理学会の会長を務めたアブラハム・ハロルド・マズロー先生(生没年:西暦紀元後1908年 - 1970年)による,西暦紀元後1970年に発売された著書は下記のように説明します.

 

 (前略)少なくとも我々の文化では,若者はまだ自己同一性あるいは自律性を達成していない.(中略)天職を見出してもいない.彼らは彼ら自身の価値体系も確立していない.(中略)若い人達は自分自身が不確実であり,まだ固まっておらず,仲間が少数派であるが故の不安がある(後略)

 

出典:A.H. マズロー (著), 小口 忠彦 (訳) 『人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ 改訂新版』 産能大出版部 1987年 初版 xxxvi頁 - xxxvii頁

 

 程度の差はあるかもしれませんが,日本人に限らず,全時代と全地域で若者たちが自己の確立に悩むのは普遍的なことであるのではないでしょうか.
 いずれにせよ,まだ自己を確立していない人たちの内側には,かけがえのない個性が眠っていますし,それは十全に活用して発達させるべきものであるのです.当然に,D&DおよびShadowbaneなどにおける,個性豊かなキャラクターたちがもつさまざまな能力は,かれらが自分の才能を発達させた結果であるといえます.
 森岡毅氏は下記のように主張します.

 

 成功は必ず人の強みによって生み出されるのであって,決して弱みからは生まれない.

 

出典:森岡毅 (著) 『苦しかったときの話をしようか』 ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 ダイヤモンド社 2019年刊行 6刷 32P頁

 

 (前略)どんな特徴もポジティブに捉えて欲しい.持って生まれた特徴は君の宝物なのだから.

 

出典:同上 133頁

 

 したがって,若者たちは少しでも早く自分の個性を確立すべきでありますし,そもそも,各人の軸は生まれる前から定められているべきなのかもしれません.
 ベナレス・ヒンドゥー大学教授,マドラス・アダヤール図書館司書長,フランス・インド研究員ならびにフランス極東大学校で教職,ベルリンとヴェニスの国際音楽比較研究学院の主任教授などを歴任した,フランス人であるアラン・ダニエルー先生は,Class (階級)と同義であるヴァルナの混血について下記のように説明します.

 

 動物界であれ人間界であれ,種が混じりあうと雑種の個体が生まれ,美しく調和した創造の業を歪めてしまう.かれらは各々の種を特徴づける徳の力を失ってしまうのである.(中略)純血種の動物は,混血種の動物がもたない定まった性格をもっている.牧羊犬は猟犬ではなく,商人から騎士は生まれない.

 

出典:アラン・ダニエルー (著) 淺野卓夫 (訳) 小野智司 (訳) 『シヴァとディオニュソス 自然とエロスの宗教』 芸術人類学叢書 講談社 2008年刊行 一刷 402頁 - 403頁

 

八節:Shadowbaneの分析

 

一項:三種類の基本的Guild (ギルド/座)

 

Noble House(高貴家/貴族家門)の挿絵

 

Military Legion(武闘軍団/軍隊)の挿絵

 

Mercenary Company(傭兵共食仲間/傭兵団)の挿絵

 

 SBには三種類の基本的なGuild(ギルド/座)があります.Noble House(高貴家/貴族家門)とMilitary Legion(武闘軍団/軍隊)とMercenary Company(傭兵共食仲間/傭兵団)です.これらのGuild(ギルド/座)は,Guild Hall(ギルド会館/座会館)にKeep(天主)が設定されていること,ならびに,基本的でない複数のProfession(専門職)と物語上の関係がないことに,共通性を見てとれます.
 基本的なGuild(ギルド/座)の数が三であるのは,開発者が三機能を意識したものだからであると,筆者は推測します.Noble House(高貴家/貴族家門)が第一機能である文に,Military Legion(武闘軍団/軍隊)が第二機能である武に,Mercenary Company(傭兵共食仲間/傭兵団)が第三機能である商に対応します.とはいえ,これには若干の説明がいると思います.

 

 Military Legion(武闘軍団/軍隊)が武(第二機能)を重視することに説明は不要でしょう.Mercenary Company(傭兵共食仲間/傭兵団)が雇用主を探すのは金(第三機能/商)を重視しているからであり,SB世界における戦乱の時代では,それが財産(第三機能/商)を得るための最も効率的な方法の一つであることを推測できます.
 現実世界でもSB世界でも,貴族の多くが有力な武人(戦士/第二機能)から始まります.しかし,Noble House(高貴家/貴族家門)の本質は,武(第二機能)でも商(第三機能)でもなく,文(第一機能)です.

 

 ユダヤ系ドイツ人であり,ガーナ大学社会学部教授を務めたノルベルト・エリアス(生没年:1897年 - 1990年)先生は,貴族についてこのように説明します.

 

 貴族は剣術が下手でも貴族である.だが,剣術にどれほど長けていても貴族にはなれない.

 

出典:『宮廷社会』

 

 序列を巡る紛争を未然に防ぐ手段として,貴族という法的身分は儀礼によって定められ,式典での席が決まります.敵対者からの攻撃で,貴族が使用人と土地ならびに財産の全部を失っても,礼儀作法と教養,ならびに,文化資産と血統である第一機能こと文によって,かれらは貴族であり続けます.

 

 貴族には三種類がありますが,これは主と副の概念で説明するのが分かりやすいでしょう.三種の貴族における主は全部が文(第一機能)になり,副が文(第一機能)か武(第二機能)または商(第三機能)になります.
 文人貴族は官僚(法服貴族)か文化人または非出家の聖職者であり,武人貴族は戦士(帯剣貴族)か政治家であり,商人貴族はブルジョワです.それらのどれであっても,貴族としての最も重要な目標は,文(第一機能)に属する儀礼上の地位を高めることです.

 

 Noble House(高貴家/貴族家門)および貴族性についての詳細な検討は,別の記事で行います.

 

二項:三種類のPalace (宮殿)

 

Feudal Palace (封建宮殿)の3Dモデル

 

Belligerent Palace (交戦宮殿)の3Dモデル

 

Mercantile Palace (重商宮殿)の3Dモデル

 

 SBには三種類のPalace(宮殿)が登場します.Feudal Palace (封建宮殿)とBelligerent Palace (交戦宮殿)ならびにMercantile Palace (重商宮殿)です.
 ゲーム上で,Palace(宮殿)は,特定のRealm(領域)において条件を満たすことでプレイヤーが建設できるものです.宮殿を建築したGuild(ギルド/座)は各City(都市)からTax(税)を徴収できるようになり,Palace(宮殿)の種類に応じて,Realm(領域)内の全City(都市)におけるBuilding(建物)が,耐久と改修ならびに維持の各値に影響を受け,税率も変動します.

 

 便宜上はPalace(宮殿)として扱われていますが,Belligerent Palace (交戦宮殿)とMercantile Palace (重商宮殿)は現実世界に存在せず,それらは大規模な要塞および邸宅であるといえるでしょう.現実世界と対応しているのはFeudal Palace (封建宮殿)だけです.
 SBでPalace(宮殿)が三種類も作られたのは,三機能を意識したものだからであると,筆者は推測します.Feudal Palace (封建宮殿)が第一機能である文に,Belligerent Palace (交戦宮殿)が第二機能である武に,Mercantile Palace (重商宮殿)が第三機能である商に対応することは,明白です.

 

三項:Profession (専門職)

 

九節:社会と生き方

 

一項:価値観

 

二項:歴史循環論

 

三項:支配の方法

 

 

追記予定:

中世ヨーロッパとの比較

対抗文化とD&D